新着情報

「ひな人形」平面作品の制作

 

こんにちは。デイセンターの森です。

デイセンターでは、よろこび荘のご利用者が毎日、色々な活動に取り組んでいます。

今回は、「ひな人形」をテーマにした作品制作の過程を通して、日中活動の支援の方針や進め方をご紹介します。

 

昨年の四月に私が入職した時は、作品の下書きや仕上げの多くを、職員が代わりに行うことがありました。

ご利用者の自主性を高め、皆さんの感性を生かすために、職員の作業を減らして行くことが、今年度取り組むべき、私のミッションとなりました。

この一年近くで10点ほど大きな作品を作りました。段階的に、皆さんの作業比率を高めて行くことに成功し、今回ご紹介する作品を含めて、今ではほぼ100%の工程を皆さんが行っています。

今回は、110×80(cm)の紙パネルにひな壇を描く所から始めました。

皆さんの感性、個性を生かすため、いつもできるだけシンプルなデザインで進めるようにしています。

今回は、ひな壇を斜め横から見た構図で描き、ひな人形などの細かい部分は、おいおい調整しながら作るようにしました。

当初は完成図のラフスケッチを私が描いて進めていました。しかし、制作途中で皆さんが面白いアイデアや形を創り出すことがあったので、それらを柔軟に取り入れるために、完成のイメージを作り込まないようにしました。

ひな壇の、階段状のガイドラインは、私が台紙に指を当てて、「ここまで線を引いてください」とご利用者に伝えて、書いていただきました。大きくずれることがありましたが、支援者が思った通りに行かないのが、皆さんとの作品作りの醍醐味です。フリーハンドで引いた線は、膨らんだり曲がったりしています。ひな壇に並ぶ人形たちが、バランスを取りながら立つ様子を思い浮かべると、わくわくするのでした。

こちらは背景部分のアップです。黒い画用紙に白いクレヨンで線を引き、手で千切ったものをのりで貼っています。

皆さんはハサミを使うのも得意ですが、背景などは手で千切った方が紙同士が自然に馴染みます。

ひな壇と背景に紙を貼り終えると、いよいよひな人形の制作です。まずは、顔を作りました。

紙に見本の丸を描いて、ご利用者に同じくらいの丸を描いていただき、それをハサミで切り抜くように伝えました。大小の丸と、パンチで作った小さな赤い丸で構成されたシンプルな顔です。

この時、目のパーツである黒い丸を、ご利用者がなぜか、半円状のかまぼこの形に切りました。肌色の顔にかまぼこ型の目と口を並べて、「よし!これで行きましょう」と私は言いました。丸い目よりこちらの目の方が断然かわいいですね。

たくさんの顔ができました。少しずつ表情や大きさ、髪型が違っていて、味わいがあります。

次に、着物を作りました。着物も、四角や丸などの見本を示して、ご利用者に描いていただきました。ハサミで切り抜いてそれを重ねています。写真のオレンジの部分の着物は、丸く切り抜いたものを、「半分に切りましょう」と伝えました。切取線を引いてから切り抜くだけではなく、線を引かずに切っていただくなど、自然な流れで少しだけハードルを上げるような支援の工夫をしています。

スモールステップという考え方がありますが、生活場面だけではなく、活動の中で少しずつステップアップできるような進め方をしています。初めは少し戸惑うようなことがありますが、例えば丸を半分に切ったものを写真のように貼ると、その工程と仕上がりのイメージが皆さんの中で関連付けされて、二枚目以降は安心して切ることができるのでした。

そして、そのような経験をたくさん積むことによって、初めての作業、初めて手にとる画材や道具に対しても、柔軟に対応できるようになります。楽しく取り組んだ結果が、人形の着物になる。手を動かすことで面白い結果が得られるという体験が、皆さんの創造性や活動への積極性を強化します。

ハサミで切り抜いたままでは少し平坦な印象があったので、着物のオレンジの部分に、銀色のクレヨンで線を引いた同じ色の紙を貼っていただきました。しかし、私が指定していた紙とは違う、赤に銀色の紙をご利用者が間違えて貼ってしまいます。それを見て私は、「重ね襟」のようだと思いました。間違いではなかったのです。作品を主体的に作っているのは皆さんで、私たち支援者は、少しだけお手伝いしているだけであって、正しいかどうかは、皆さんが決めるべきです。

アートとは、本来、自由で開かれたものであり、私たち支援者はその実現をお手伝いするようにしています。

三人官女に続いて、五人囃子を作っていきます。顔を貼る位置など、始めは指を差して指定していたような所も、何度か貼っているうちにバランスを取ってご自分で貼れるようになりました。

笛や太鼓などの見本を見て、ご利用者が書き写します。サイズや形が多少変わっても問題ありません。むしろ、どんな面白い形になるのか、わくわくしながら見守ります。

最後に手と、楽器などを貼って完成です。

ぬくもりのある、面白い作品ができました。

支援者が細部まで下書きを描いたり、それにこだわって口や手をはさみ過ぎるような進め方では、なかなかこのような素敵な作品はできません。「こうあるべき」「こうすべき」と言う風に、作業の手順や仕上がりに、支援者が無意識にこだわり過ぎることがあります。「楽しい時間をすごしていただく」「面白い経験をしていただく」ということが支援の目的で、作品作りはその手段に過ぎません。細部や手段にこだわり過ぎず、大らかで柔軟な心持ちで、ご利用者のニーズを満たすことが、本来の支援のあり方です。

作品作りは、常識にとらわれず、皆さんが個々に持つ自分らしさを思い切り発揮できる機会です。これからも私たちは、自由で開かれた作品作りを通して、ご利用者の自主性や創造性を高めて行きたいと思います。